
理想科学×UTで贈るシルクスクリーン印刷体験ワークショップ
写真左から、加藤さんと加納さん。
取材したのは、一般の人にリソグラフ印刷の現場を体感してもらう
インスタレーション企画の日だった。
壁にはられたのは印刷時に出たミスプリントの紙。
何冊もの著名な旅雑誌を手がけてきた名編集者が次に仕かけたのは、「リソグラフ」を活用した独自の雑誌づくりだった。インディペンデントな雑誌制作の現場と、出版における「リソグラフ」の可能性に迫る。
住宅街にある小さなスタジオで、1台の「リソグラフ」が忙しそうに稼働していた。2018年設立の出版社「NEUTRAL COLORS{NC}ニュー・カラー」を主宰する加藤直徳さんは、かつて名だたる旅雑誌を立ち上げてきた編集者。会社設立の理由を「少部数でいいので時間をかけて、個人としての自分が本当に伝えたいことだけを伝える、手紙のようなメディアをつくりたかった」と語る。かねてより印刷の美しさに感銘を受けていたインドの出版社を訪問し、シルクスクリーンによる手作業の印刷現場を体感した結果、同じ孔版印刷機である「リソグラフ」の活用を決意。「情報の速さではネットに勝てません。そうではなく、紙で残しておきたい”感情“を必要な量だけ刷りたいと考えた。『リソグラフ』ならそれが可能でした」と話す。
同社初の雑誌となる『NEUTRAL COLORS』創刊号は5000部を自分たちの手で印刷。オフセット印刷とリソグラフ印刷、美しい写真と自由な意匠が縦横無尽に組み合わさり、気軽に手に取れる親しみやすさとほかにない特別感が混在したユニークな一冊に仕上がっている。「インクの濃淡があったり紙質もまちまち。整然としたオフセット印刷の上に手づくり感のあるリソグラフ印刷が乗っているのも、雑誌としては異質。でもめくるたびに発見のある、唯一無二の雑誌にしたかった」とアートディレクション/デザインを手がけた加納大輔さんは語る。「版を重ねることでどんな表現ができるか、『リソグラフ』の可能性を追求する楽しさもあります」と笑顔で続けてくれた。
取材時、まさに印刷が進められていたのは『NEUTRAL COLORS』の第2弾。「この号にも存分に個人的な思いを編みこんでいます。手に取ってくれた読者の方に『かつてない読書体験』を提供できたら嬉しいですね」と加藤さん。名編集者のかたわらに、その熱き挑戦を支える「リソグラフ」の姿があった。
NEUTRAL COLORS{NC}ニュー・カラー
主要メンバーは編集者・加藤直徳さんとアートディレクター・加納大輔さんの2名。雑誌『NEUTRAL
COLORS』のほか、絵本、ドキュメンタリー、小説、写真集などを出版。企画、編集、製作、印刷、製本、営業までを一貫して行う。スタジオには作品展示や販売スペースも。
(広報誌『理想の詩』2021年夏号より)