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「理想の詩」創り出す人々(2022年冬号)

モノクロームマジックに魅せられて

「モン・サン・ミシェル」(2016)
テレビ番組の収録時に世界遺産をテーマに制作した作品。

高校卒業後の人生を決めた黒板アート

2015年1月、当時世界的ブームを巻き起こしていたアニメーション映画をモチーフに描いたモノクロの絵が、瞬く間にネット上で拡散され話題となった。主人公の後ろ姿と、夜空にきらめくオーロラ、雪山や街といった描写の精巧さ以上に人々を驚かせたのが、その絵が教室の黒板にチョークで描かれたものであり、さらに、翌日に授業が予定されていたため、写真撮影後すぐに作者の手によって絵が消されていたという事実だ。

放課後の教室で一人、”卒業前の記念になれば“と黒板に絵を描き、SNSに投稿したのが、当時高校3年生だった中島玲菜さん。1本の投稿をきっかけにメディアの取材や仕事の依頼が舞い込み続け、それ以来、プロの黒板アート作家として創作活動を続けている。

「当時通っていた美術予備校のデッサンの授業で用いる木炭と、チョークが似ていることに気づき、ふと思いつきで描いてみたんです」と振り返る。それが、まさに中島さんのその後の運命を決定づける一枚となった。

「変幻」(2022)
香川県にある四国水族館とのコラボで制作。とめどなく変化する魚の群れを描いた。

(左)「breath」(2021) 長野県の御射鹿池がモチーフ。静謐な朝、確かな息の音。どこか寂しげなひと時を思わせる。

(右)「NYC」(2021) ニューヨークを訪れた際に撮影した写真をもとに制作。

モノクロから感じられる鮮やかな色彩のイメージ

文化祭や卒業シーズンを中心に定期的に話題になるなど、知名度自体は上がってきた黒板アートだが、先人のいないジャンルなため、中島さんは表現方法も画材もすべて試行錯誤しながら自分で確立させてきた。「黒板とチョーク以外に決まった道具はないので、ときにはメイクに使われるような小さなチップなどを活用することもあります。依頼される案件のたびに失敗や発見があり、そこから手探りで自分なりのやり方を開拓してきました」と中島さん。

チョークでベースを描いた後は、指先で細かい部分を描写したり、指の腹で撫でることでグラデーションなどを表現。指先の湿りなどその時々のコンディションによって粉の付き方も変わってくるが、それこそが手で描くアナログならではの魅力だと語る。「タブレットなどを使うクリエーターの方も多いですが、私は手を使うのが一番好きですね。頭のイメージと指先がつながっていて、思った通りに描けるんです」。

作品を見た人から、「モノクロだけど色が見えるよう」と言われたことも。「見る人の頭の中でそれぞれイメージする色彩があって、面白いと感じています」と中島さんは話す。

年末には個展開催を控えており、現在その準備に余念がない。「多くの人にとってあまりなじみのないアートかもしれませんが、いち作品として見ていただき、一人でも多くの人に楽しんでいただけたら嬉しいですね」。新たなジャンルを切り拓いた中島さん。唯一無二のクリエーターの今後に注目したい。

取材現場で、すでに描きあがった作品の“手直し”をしてくれた中島さん。チョークの粉はほかの画材のように定着しにくいため、長期展示や保存の手段が課題となっている。
作品名「2022 3月」(2021)の一部。描いていくうちに土台の溝に落ちていく白いチョークの粉。実物を目にすると、学校で見慣れた黒板に描かれていることを実感する。

愛用の黒板消し、チョーク、練り消しゴムと、小さなチップ。

中島 玲菜(なかじま・れな)
1996年生まれ。高校3年生の時に黒板に描いた絵がSNSで大きな話題に。その後宮部みゆき著『過ぎ去りし王国の城』(KADOKAWA)の表紙カバーイラストを担当。映画や小説、ゲームのPRイベントなどで黒板アートを作成するほか、2017年には村上隆氏、蜷川実花氏、増田セバスチャン氏らと共に「ドラえもん展」に参加。2021年香川県善通寺市第一高校デザイン科にて黒板アートについての授業を実施。


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