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「理想の詩」Close Up(2020年春号)

「リソグラフ」が可能にする街と人の交流と表現

世界中から先鋭的なアーティストが集まる舞台芸術の国際的祭典「フェスティバル/トーキョー」に、「リソグラフ」を備えた架空の印刷所が登場。印刷を通して繰り広げられた、国境もジャンルも超えた交流の様子を取材した。

アーティストの大河原さん(右上)が講師を務めたワークショップでは、参加者が思い思いに描いた絵をつなぎ、ポスターをつくった。

見知らぬ人同士を印刷がつなぐ

「フェスティバル/トーキョー」は東京・池袋エリアを中心に展開される都市型の芸術フェスティバルで、2009年の開始以来、演劇、ダンス、音楽、美術、映像などのプログラムを通して社会における芸術の可能性を追究してきた。そして今回、プログラムのひとつとして「リソグラフ」を備えた印刷所「ひらけ!ガリ版印刷発信基地」が登場。印刷を通したさまざまなワークショップが展開された。「パフォーマーと観客という関係性を超えて、街の人やアーティストが一緒に何かを表現できる場にしたかった」と、その意図について共同ディレクターの河合千佳さんは説明。「『リソグラフ』で版を重ねて編集していく作業は、ある意味演劇やダンスの演出と同じ。一つ一つの作用が重なり、予想を超えた表現が実現できる可能性もあります」とも語った。
本プログラムを企画したのは、「リソグラフ」をベースとした印刷スタジオ・シェア工房を営むHand Saw Press。約1カ月にわたるフェスティバル期間中、商店街の空き店舗を印刷所に見立て、連日ZINE(小冊子)や地図、マンガをつくるワークショップや読書会などを開催した。「ZINE制作に興味がある人はもちろん、SNSで情報を知り来てくれたという海外の旅行者も多い」と語るのはメンバーの安藤僚子さん。現場で自作したZINEの一部を置いていってもらう代わりに好きなZINEを持ち帰れるようにしたところ、短期間で予想以上のZINEが交換されたという。また、「その場に居合わせた人たちが体験を共有し、ひとつの作品にできたら面白いと思った」と語るのはアーティストの大河原健太郎さん。自身が担当したワークショップでは、参加者が描いた絵をつないで大きなポスターにし、最後にそれを綴じてZINEを完成させた。
見知らぬ人同士が印刷物を通して表現を共有し、交流する。そのダイナミズムが感じられるユニークなイベントとなった。

会期中、多くの人の手によるZINEが集まった。

印刷所のネーミングについて、「懐かしい響きを持ち、『リソグラフ』と同じ原理を持つ『ガリ版』という単語をあえて使った」と話す安藤さん。

Hand Saw Press 安藤僚子さん
その場で描いてすぐにスキャンし印刷できる「リソグラフ」の即興性、ライブ感はほかの印刷機にはないもの。イベントの現場だからこそ、その面白さをあらためて感じます。

アーティスト 大河原健太郎さん
(けんたろうお兄さんの「リソグラフってなあに?」〜大きな絵になるZINEをつくろう〜担当)
ふだん「リソグラフ」を使うときは面を生かした表現にし、独特の味わいが際立つようにしています。簡便性と、手づくりの生っぽい感じを出せるのが魅力。

デザイナー 大田拓未さん
(けんたろうお兄さんの「リソグラフってなあに?」〜大きな絵になるZINEをつくろう〜担当)
ZINEやポスター制作に「リソグラフ」を使っています。発色のよさがいいですね。今後もその可能性を最大限に生かしていきたいですね。

フェスティバル/トーキョー19

2019年10月5日(土)〜11月10日(日)にわたり、12組のアーティストが8カ国の拠点から参加、15以上の多彩なプログラムが展開された。12回目となる今回のテーマは「からだの速度で」。2018年より長島確、河合千佳両氏が3代目の共同ディレクターを務めている。

  • 次回2020夏号は6月上旬のお届けを予定しております。

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