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「理想の詩」Close Up(2019年冬号)

アートブック制作に不可欠な「リソグラフ」がクリエーティビティを刺激する!

7月12日(金)〜15日(月)の4日間にわたり東京都現代美術館で開催された「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」。国内外から集まった多くの出版社やアーティストたちが「リソグラフ」を使って作品を制作しているという、その実態に迫った。

4日間の来場者数は約3万5千人。会場となった東京都現代美術館は、多くの“本好き”の熱気に包まれた。

世界のアーティストが「リソグラフ」に夢中に!

今年10年目を迎えた「TOKYO ART BOOK FAIR」は、アジア最大級のブックフェアだ。会場に所狭しと並べられたブースでは、世界中から集まった300組に上る出版社やギャラリー、アーティストが、それぞれの個性豊かなアートブックやZINE(小冊子)を展示・販売。来場者が各ブースを訪れては、つくり手と会話しながら、作品を購入していった。「つくり手にとっては自作を発表でき、来場者にとってはあまり一般に流通しない作品に出合える、そういう意味のある場になっていると思います」と語るのは、本イベント運営事務局の黒木晃さん。「出展者にしても来場者にしても本が好きな人が集まっていて、直接やり取りをしながら作品を購入できるのが醍醐味ですね」と続ける。
多くの作品がひしめく会場内でひときわ目につくのが、「リソグラフ」を活用した作品たちだ。「国内外を問わず、印刷手段として『リソグラフ』を活用するつくり手が年々増えているのを実感しています」と黒木さん。「まずはコストバランスがいいので、若い作家や小規模な創作活動を行っている人にとってメリットが大きい。それから、大量に刷れるにも関わらず、どこか手づくりのようなぬくもりのある風合いが出せる。そうした特長が、表現方法として多くの作家にフィットしているんでしょう」と分析する。また今回、理想科学は「リソグラフ」本体の提供や印刷サポートという形で協賛。さらに、本イベント10周年記念の目玉として、第1回の開催時に「リソグラフ」で制作されたZINE「100 PAGES/ 5ZINES」の復刻版が制作され、会場にて500部限定で販売、好評を博した。
多くの人にとっては学校の印刷物などでおなじみの「リソグラフ」が、実はクリエーティブな表現手段のひとつとして、世界中のアーティストに支持されている。「リソグラフ」の未知なる可能性の一端が垣間見られるイベントとなった。

会場を彩った、「リソグラフ」で創作された色鮮やかな作品たち。国内外で、「リソグラフ」を使ってアート作品をつくるスタジオやつくり手などが増えているという。

会場内の特設ブースに「リソグラフ」本体を展示。会期中多くの来場者が訪れ、印刷体験を楽しんだ。

会場で聞きました!海外からのアーティストの声

KNUCKLES & NOTCH marilynさん(シンガポール)

「リソグラフ」は色が鮮やかなのがいいですね。植物油インクでエコフレンドリーなところも気に入っています。

lucky risograph Joe Hirschさん(アメリカ)

色数が限られているので、つくり手が表現やデザインを工夫することで、結果としていい作品ができるのだと思う。気軽に使えるのもいいですね。

Knust press Astrid Florentinusさん(オランダ)

「リソグラフ」で本をつくることが好きです。ページをめくることで作品を手で感じることができるから。色を重ねて、新しい色をもっとつくってみたい。

TOKYO ART BOOK FAIR

アートブックフェアの先駆けとなったのは2006年以来ニューヨークで開催されている世界最大規模のアートブックフェア「New York Art Book Fair」。 日本での第1回開催は2009年で、今年で10年目を迎えた。出展者数、来場者数ともに年々その規模は拡大。日本を代表する人気カルチャーイベントとして根付いている。

理想科学工業 営業本部 和田 隆宏
会場の作品を見て、メーカーとして“こんな使い方があるんだ”という驚きと発見がありました。クリエーティブな用途に使っていただける後方支援ができればと思います。

「リソグラフ」×アートの現場から

授業の一環としてTOKYO ART BOOK FAIR 2019に参加された多摩美術大学の永原先生、「リソグラフ」を使って復刻版ZINEの作成にあたったHand Saw Pressの菅野さんに話をうかがいました。

「リソグラフ」で印刷表現の可能性を知ってほしい

多摩美術大学 情報デザイン学科 永原 康史 教授

授業の一環としてリソグラフを活用

多摩美術大学には、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)というプロジェクトを通して学ぶ授業があります。その一環としてパーソナルパブリッシング(個人出版)を学ぶプログラムがあり、企業や工房とも連携しながら進めています。このプログラムでは、学生が「リソグラフ」などを使って作品をつくり、最後にパブリッシュの実践としてTOKYO ART BOOK FAIRに出品するという仕立てになっています。

工夫次第でさまざまな表現が可能

私自身、小学生のときにガリ版印刷を経験したこともあって、「リソグラフ」はとても身近な存在でした。一方学生たちも、「リソグラフ」という名前は知らなくともその存在は知っており、使ってみたいという声が多かった。工夫によっては精緻な版画のようにつくれたり、味わいのあるガリ版印刷のように見せたりもできます。あらゆるものが高解像度化する世の中ですが、表現という点において解像度は関係ありません。色を掛け合わせるなど、工夫次第で幅広い表現が可能になる。リソグラフを通して、そういった表現の可能性を知ってほしいと考えています。

学生たちによるZINE。和綴じにしたり、薄紙を使ったりと、個性ある作品が揃っていた。


手探りの工夫で実現したZINE復刊

Hand Saw Press 菅野 信介さん

Hand Saw Pressは東京/武蔵小山を拠点とするリソグラフ&オープンD.I.Y.スタジオです。今回、第1回TOKYO ART BOOK FAIR(2009)で制作されたZINE「100 PAGES/ 5ZINES」の復刻版印刷を担当しました。10年前に刷られた現物の印刷のモード、濃度や網点などの設定を検討しながら再現するのですが、たとえばZINEに使われた写真の中には、現在では入手できない色のインクが使われているものもありました。そのため、手元にあるインクを使い、色の掛け合わせを試行錯誤することで、何とか現物に近い色を再現することができました。復刻版印刷は、「リソグラフ」の良さを生かしつつ「再現するとはどういうことか」を考えるいい機会になりました。

服部一成、ホンマタカシ、五木田智央、題府基之、土川藍&小林亮平の5組のそうそうたるアーティストによるZINE「100 PAGES/ 5ZINES」。

  • 次回2020春号は3月上旬のお届けを予定しております。

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