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「理想の詩」創り出す人々(2023年冬号)

共創で拓くバルーンの可能性

(写真上2点)2021年、ブラジルのサンパウロで行われた「バランス」展での展示。幅11メートル、高さ3メートルの大型のインスタレーションを制作。

お2人の自画像でもある「アップルベア」に、使用済みのバルーンをレジンで閉じ込めた。クマはバルーンアートで人気のモチーフで、細貝さんの原点。頭上のリンゴはアイデアの誕生という河田さんの役割を象徴している。

「脳」と「手」の役割で作品を形にしていく

空気をはらんだ小さな球体がいくつも連なり、一つの美しい造形を生み出す。繊細で精巧、そして高いデザイン性を備え、私たちが一般的に思い描く”バルーンアート“のイメージを軽々と覆すような作品を手がけているのが、河田孝志さんと細貝里枝さんによるユニット、DAISY BALLOONだ。
「作品の大小に関わらず、小さな粒子を集めて一つの形を形成させるという考え方を大切にしています」。そう話すのは細貝さん。もともとソロで創作活動をしており、バルーンを使ったドレスなどアート性の高い作品を発表していた。一方デザイン会社を運営していた河田さんは、デザインの依頼を受けたのがきっかけで細貝さんのバルーンアートに出合う。「こんな繊細な作品を人の手でつくれることに衝撃を受けました。そして作品を見るうち、僕の頭の中にどんどんイメージが立体的に立ち上がってきたんです」と河田さん。河田さんのグラフィック的視点から得たアイデアを細貝さんが作品に反映させるようになり、やがてユニットとして活動することに。主に作品全体のコンセプトやベースとなるアイデアを生む「脳」の役割を河田さんが、それをバルーンという実体で構成し、具現化する「手」の役割を細貝さんが担っている。

 細貝さんの原点は大道芸のバルーンアート。「バルーンをつくると子どもが喜び、それを見て周りも笑顔になります。バルーンは幸せをもたらしてくれるものだと思う」と細貝さん。

河田さんは紙で形をつくりながら、細貝さんにアイデアを伝える。細貝さんは、河田さんの頭の中にある抽象的なイメージをバルーンで具体に落とし込んでいく。

2016年の作品「Big Bang」。さまざまな形をしたバルーンの粒を使ってドレスを形成した。

命を宿せば朽ちていくバルーンの儚さ

人工物然としたイメージのあるバルーンだが、空気を入れて膨らませれば、必ずいつかは空気が抜け、しぼんでしまう。そうした有機物的な側面を持つのも大きな特徴だ。以前、数カ月に及ぶ長期の展示を依頼された際は、バルーンがしぼんでいく経過、変化までも、観る人が楽しめるようなデザインに仕上げた。「すぐに劣化してしまうというバルーンの特性を考えると、依頼を受けたときは正直戸惑いましたが(苦笑)、その特性を逆手にとり、新しい表現に結びつけることもできました」と河田さん。「自然物、生命にも似たその儚さは、バルーンという素材のやっかいな点でもあり大きな魅力でもあります」と細貝さんも続ける。
そのためか、自然から受けるインスピレーションがもっとも重要という2人。河田さんは、ふだん見ている雲や雨、森、風などから細胞が記憶しているイメージを、頭の中で抽出してデザインに落とし込んでいき、細貝さんは、植物の茎の立ち上がり方、葉脈、花びらの様子などを、バルーンの編み込み方に重ね合わせていく。
人工的であり有機的でもある唯一無二のバルーン作品。DAISY BALLOONがこれからどんな作品に命を吹き込んでいくのか。注目したい。

2023年冬に上海にて展示される作品の模型を横に取材に答える細貝さん。

「バランス」展で使用したのはバルーンメーカーと共同開発したオリジナルのバルーン。積層偏光フィルムが使われており、光が当たると虹色の輝きを放つ。

デイジーバルーン 細貝里枝×河田孝志
2008年に結成した、バルーンアーティストの細貝里枝さんとアートディレクター・グラフィックデザイナーの河田孝志さんからなるアーティストユニット。「感覚と質」をテーマに、バルーンで構成された数々の作品を制作している。商業施設のディスプレイからアーティストの舞台衣装、広告作品まで手がける作品は多彩で、国内外から高い評価を得ている。

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