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ヨーロッパのRISO ARTの今
近年、世界各国のアーティストたちの間で、レトロな風合いに仕上がり、色の組み合わせを楽しんだり、薄い紙にも刷ることができるデジタル印刷機「リソグラフ」が人気を博しています。特にヨーロッパでは、リソグラフを持つスタジオが街の中にあり、だれでも気軽に利用できます。現在のRISOART を牽引する2つのスタジオ、オランダの「Knust Press」とノルウェー「Pamflett」に話を伺いました。
オリジナリティの高い作品を求める アーティストの力になる
Knust Press : オランダ
1984 年に設立したオランダの「Knust press」は、リソグラフ界におけるレジェンド的な存在。設立から38 年経った今も、つねに先駆者として、若いアーティストたちを惹きつけています。このスタジオはアーティスト集団Extrapool の活動拠点ともなっていて、A2 サイズ機、A3 / A3+サイズ機を含む8 台のリソグラフを保有。データ作成から印刷、裁断や製本までをサポートしています。
創業者のヤン・ダーク・デ・ワイルドさんは「私たちはドイツとの国境に近い、ナイメーヘンという小さな町でスタジオを営んでいます。アーティストと一緒に、ポスターやフライヤー、本などを制作しています。首都アムステルダムにある、DIY でプリントができるスタジオを手伝うこともあります。制作するうえでは、アーティストとしっかりコニュニケーションすることがとても重要だと思っています」と話します。
アーティストたちに対しては、製版方法はもちろん、紙などについてもアドバイスをしているそうです。「先日は、あるプロジェクトで700gもあるとても厚いボール紙を使いました。いろいろなことができるのが『リソグラフ』の良さです。
なぜだか、オランダには「GOCCOPRO」を持っているスタジオがないので、人々はほかではプリントできない表現などを求めて、私たちのところを訪れます。『リソグラフ』も『GOCCOPRO』も、私にとっては唯一無二の作品を生み出すツール。多くの人に使ってみてと紹介しています。6 年前にチェコのプラハからインターンが来たとき、『GOCCOPRO』を勧めたら、とても熱心に取り組んでいました。プラハに帰るとき、とても欲しがっていましたよ」とヤン・ダークさん。
一緒に仕事をしているジョイス・グレイさんは、「私にとって『リソグラフ』は、手作り感があるところが魅力です。どんなふうに印刷できるのか、つねに紙とコミュニケーションしているような気持ちになります。製版をきちんと行えば、とてもきれいに仕上がるところも好きです。そのためには準備も大切だと思います。どういう仕上がりにしたいかをよく考えて製版を行うことで、満足のいくプリントができます」と話してくれました。
『リソグラフ』と『GOCCOPRO』の組み合わせで制作の幅が広がった
Pamflet : ノルウェー
「Pamflett」は、ノルウェー西部の港町ベルゲンに拠点を置くスタジオ。ノルウェーでは小さなスタジオ同士がリソグラフなどの機器や情報を共有し、協力しあっているのが特徴ですが、「Pamflett」はその中心的な存在。年に一度開催する「Bergen Art Book Fair」の主催者でもあります。
スタジオ代表のアン・クリスティン・スタロンさんは、「私はグラフィック・デザイナーをしていたのですが、『リソグラフ』で印刷をしたくて、2016 年にスタジオを作りました。現在は主にアーティストの作品作りをサポートしたり、ギャラリーなどが開催するイベントの雑誌やポストカード、フライヤーなどの印刷をしています。もちろん、本も作ります」と話してくれました。
スタジオには「リソグラフ」が2台あるほか、「GOCCOPRO」も保有しているそうです。
「2019 年に『GOCCOPRO』を入手したのですが、ハードカバーの本の表紙の印刷やテキスタイルプリントなどができるようになり、『リソグラフ』と『GOCCOPRO』を組み合わせることで制作の幅が広がりました。さまざまなワークショップやイベントにも活用しています。その場でお客さんにプリントしてもらうパフォーマンスが人気です」。
ワークショップで一緒に活動しているのが、イラストレーターのオーシル・カンスタ・ヨンセンさんとファッションデザイナーのシブ・ストルダルさん。
日本でも人気が高い絵本「キュッパのはくぶつかん」などの作者でもあるオーシルさんは、子ども向
けワークショップを開催しています。
「『Pamflett』の子ども向けワークショップでは、子どもたちが白い紙に黒いペンで形を描いたり、黒い紙を切って貼ったりしたモノクロの原稿を使って『リソグラフ』で印刷します。子どもたちは白黒だった絵がカラーになったり、さまざまな色の重なり方をすることに驚いたり、楽しんだりしています。それはどの子どもにとって貴重な体験。そして私も、自分の作品に対する多くのインスピレーションを受け取っています」。
また、日本でも自身のブランドを展開しているシブさんは、オリジナルデザインのT シャツにプリントをするワークショップを行っています。
「『リソグラフ』は色を重ねる表現づくりに優れていますし、とても簡単。使うときはいつもワクワクしています。そして、ゲストと一緒に楽しめるワークショップができるのも魅力。オンデマンドで1枚からでもT シャツを作ることができ、自分で作ったものを大切し、長く所有することは環境配慮の面でも重要です。そして水も無駄にせず、化学物質も少なくてすむ『GOCCOPRO』で作品づくりをすることは、アーティスト自身にとっても重要なことだと思います」。
多くのスタジオと協力してRISOART の制作を続ける「Pamflett」では、今後はアーティスト向けのワークショップも開催したいと考えているそうです。
「Knust Press」と「Pamflet」が理想科学の本社を訪問
シルクスクリーンのワークスペース 新橋ショールームも訪問
「Knust Press」と「Pamflett」は、「TOKYO ART BOOK FAIR 2022」に出展するために来日。同展の開催前に理想科学の本社を訪問してくれました。
初めに、リソグラフやオルフィスの各種機器を展示している田町の本社ショールームをご案内しました。中でも皆さんの興味を引いたのは、1 度の通紙で両面印刷が可能なデジタル印刷機の「リソグラフMH935W」です。日本限定の機種のため、この日初めて目にしたとのこと。扉を開けて中を確認したり、印刷サンプルを手にして精度の高さに感心したりしていました。また、さまざまなタイプの用紙を使った印刷サンプルの前でも足を止め、じっくり見入っていました。
次に、小型スクリーン製版機「MiScreen a4」やデジタルスクリーン製版機「GOCCOPRO」などがある新橋のショールームへ行き、実際に「MiScreen a4」を使った製版から印刷までを見学してもらいました。どちらのスタジオでも活用している機器ですが、スタッフが生地の色によるインクの発色の違いを説明すると、サンプルを手に取ったり質問をしたりと、にぎやかなひとときになりました。
また、「TOKYO ART BOOK FAIR 2022」で、「MiScreen a4」を使ってT シャツプリントのワークショプを行う「Pamflett」は、細かいラメが入ったオリジナルのインクをノルウェーから持参。ラメが製版したマスターをどの程度通るかをテストしました。無事にきれいにプリントされることがわかると、「楽しいワークショップになりそう」と笑顔で話してくれました。
最後に品川区西小山にある「Hand Saw Press」のスタジオを訪問。実際に印刷する様子を見ながら、リソグラフ印刷について活発に意見を交わしていました。「TOKYO ART BOOK FAIR 2022」出展前の有意義な一日になったようです。