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「理想の詩」創り出す人々(2017年夏号)

紙ヒコーキは夢を乗せて

滞空時間でギネス記録を更新

 上空をじっと見定めた後、1歩、2歩と進み、地面すれすれまで膝を折り曲げる。上半身を大きく後ろにそらしてから、右手を真っすぐ上に放つと、紙ヒコーキはドームの天井すれすれの高さに到達。そこからゆっくりと円を描くように滑空し、機体が地面に到達したのが29.2秒後。観客の拍手が鳴り響いた。2010年12月の札幌ドームで、自身が持つ紙ヒコーキ滞空時間のギネス記録を更新したときの様子だ。
「もっと投げさせてもらえていたら35秒はいけたと思いますよ」と笑顔で話すのは、折り紙ヒコーキ協会会長であり、広島県福山市を拠点とする鋳造部品会社の代表でもある戸田拓夫さん。これまで500種類を超えるオリジナル作品を考案、紙ヒコーキの魅力を伝えるために国内外を飛び回っている。
 戸田さんが紙ヒコーキに没頭するきっかけとなったのは東京の大学時代。病気で体調を崩し寝たきりの日々が続いた頃、暇つぶしに紙ヒコーキを折っては飛ばしていたのが始まりだ。その後いかに飛ぶ紙ヒコーキをつくるかにすっかり没頭、独学で航空工学や飛行力学も学びながら、数百機のオリジナル作品を制作していった。
 地元の広島に戻り、体調回復と父親の会社の仕事に専念していた戸田さんだが、10年ほど経った頃、ふとしたきっかけで取引先の航空会社に自作の紙ヒコーキ作品を披露することに。それが地元で評判となり、紙ヒコーキ作家としての仕事も舞い込むようになった。

平和の象徴としての紙ヒコーキ

 ギネスへの挑戦は50歳を超えた頃。「子どもたちに紙ヒコーキを披露していると、“戸田さんの紙ヒコーキは世界一だね!”と言われるから(笑)。だったらちゃんと世界一を目指そうと思いました」。軽くて適度な強度を持つ最適な紙を探す一方で、体重を絞り、投擲の動きを研究。肩の力を抜いて重心移動し、全身をしならせて飛ばすフォームを編み出した。冒頭の記録はいまだ破られていない。
 戸田さんを慕って集まる子どもたちの中には、紙ヒコーキをきっかけにその後の進路を切り拓いた子もいる。「ある日東京からおばあさんと一緒に小学校1年生の子が訪ねてきました。スペースシャトルの折り方を教えたら、その後すっかり学校で人気者になった。後で、その子がそれまでいじめられていたと知りました。彼はいま、アメリカで航空工学の研究をしています」。夢は、外国のどこかの町の公園で、子どもたちが自分が考案した紙ヒコーキで遊ぶところに遭遇することなのだとか。 「紙が一枚あればどこでも楽しめる。自分が行けない場所へも飛んでいってくれる。青い空に白い紙ヒコーキが飛ぶ風景は平和そのものです。子どもも大人もものを投げて褒められることはあまりないですが(笑)、紙ヒコーキなら大丈夫。もっと多くの方にその魅力を知ってほしいですね」


2001年に地元福山市に創設した「紙ヒコーキ博物館」には、戸田さんが考案したさまざまな紙ヒコーキ作品が展示されている。


戸田さんが定義する紙ヒコーキの原則は「切らないこと」「糊ではらないこと」「よく飛ぶこと」の3つ。
「思ったように飛ばせて初めて“面白い!”となる。だから3つ目は特に大事です」。

戸田 拓夫
(とだ・たくお)

広島県福山市生まれ。早稲田大学理工学部中退後、精密鋳造会社に入社。1995年、日本折り紙ヒコーキ協会(現折り紙ヒコーキ協会)設立。2007年、キャステムグループ代表者・最高責任者就任。2009年、紙飛行機室内滞空時間のギネス世界記録(27.9秒)を樹立。2010年29.2秒で自己記録を更新。講演や折り紙ヒコーキ教室を通して折り紙ヒコーキ普及に務めている。『折り紙ヒコーキ進化論』(生活人新書)、『最新型 世界一よく飛ぶ折り紙ヒコーキ』(二見書房)などの著書がある。

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