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「理想の詩」創り出す人々(2017年冬号)

紙ヒコーキは夢を乗せて

平面を立体にする仕掛け

 掌サイズの「本」を開くと、たちまち現れる360度の精巧な立体造形。シンプルで繊細なデザインと、本の形状を維持しながら立ち上がる立体の面白さに、本の世界に吸い込まれていくような不思議な魅力がある。
  「飛び出す絵本をもとに発想したわけではなくて、板のような2次元的なものから、いかに3次元的な立体物をつくるかを検討するうちにアイデアが生まれていきました」
 360°BOOK生みの親であり、一級建築士でもある大野友資さんはそう説明する。当時所属していた建築事務所で3Dコンピューターを使った空間設計を行っていた大野さんは、たとえばCTスキャンの画像のような人体の断面図を順に並べていくと、人はその間の輪郭線を脳内で補完し、立体として認識するということに気づいたのだという。「断面図が360度の放射状になっても、同じ効果があるということに気づき、早速模型をつくってみました。その後それを“畳むこともできる”ことに気づいたんです」

職人技の粋が集まった

 そのとき制作したプロトタイプを、デジタルファブリケーション分野の国際的アワード「YouFab2012」に応募したところ、優秀賞を受賞。そのほか複数の著名な海外のクリエーティブアワードでの受賞が続き、大野さんは瞬く間に世界の注目を集めるクリエーターとなった。
 360°BOOKの商品化第一号である「富士山」が店頭に並ぶようになったのは、2015年のこと。商品として量産するにはさまざまな技術が必要だった。
 たとえば背表紙の糊づけは、背の部分だけでつながっているにも関わらず、何度開け閉めしても落丁しない頑丈さがある。何千枚もの試し刷りと膨大な調整作業を経て、細かい模様も裏表でずれることなく印刷することに成功。また、精密機械の金型メーカーに断裁機械の金型の改良を依頼。工場での量産体制においても、細かい部分も破損することなく精密にレーザー切断していたプロトタイプの精度に近づけることができた。そうしてできた40枚の図版が、最後に手作業で糸掛けされ、商品としての360°BOOKとなっている。「たくさんの方の協力を得て、最初に自分が思い描いていたイメージを超える商品が完成できた。嬉しかったです」
 本業は建築家だが、360°BOOKのようなプロダクトデザインの仕事に対しても、かける熱量は変わらないという。 「建築でもプロダクトでも考えているのは、次はどんな新しいことをどのように提案できるか?ということ。そして、360°BOOKをきっかけに、僕の建築家としての仕事にも興味を持ってもらえたら嬉しいですね」。この冬、新作の「雪降る森」が発表された。大切な人への贈り物に、手に取ってみてはいかがだろうか。


新作の「雪降る森」。繊細な造形はもちろん、紙の温かみのある質感と、光沢ある特殊印刷の重なりが美しい。デザインするときには“鑑賞の近さ”も考慮に入れるのだそう。何があるんだろう?と覗き込んで、白銀の世界に没入するような感覚を味わえる。
デザイン作業には3Dコンピューターを使用。ふだんからレーザーカッターなどのデジタル機材がそろうシェア工房を仕事場として利用している。

商品化された360°BOOKは「富士山」のほか、
「白雪姫」、そして「地球と月」も(写真左)。

大野 友資(おおの・ゆうすけ)
一級建築士。1983年ドイツ生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後、設計事務所noiz architectsに合流。2016年よりDOMINO ARCHITECTS代表。コンピュテーショナルデザインやデジタルファブリケーションを実験と実践の両面からプロジェクトに取り入れ、建築を中心としてインテリア、プロダクト、インスタレーションなどの領域を横断しながら活動。

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