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「理想の詩」創り出す人々(2018年夏号)

水中に宿る2.5次元の命

”金魚救い”がすべての始まりだった

  日差しを映してキラキラと輝くうろこ、気持ちよさそうに水をかく尾びれ……。まるでたったいま水槽からすくいあげたばかりのような、リアルな生命感と躍動感を感じさせるのが、深堀隆介さんが手がける金魚画だ。ここまで精巧に金魚を描いていながら、意外にも金魚を綿密にスケッチするということはないのだという。
「飼っている金魚の世話をすることでふだんから観察ができているのか、頭の中に生き生きと泳ぐ金魚の姿がすでにある。それを描き出しているだけなんです」と深堀さんは話す。  深堀さんが金魚に特別な思い入れを持つようになったのにはきっかけがある。
美大を卒業し、美術で身を立てようと決意したものの、自分らしい作風もなく評価をもらえない日々が続いた。 「あきらめるしかないのか」と思い悩んでいた頃、祭りでもらったまま粗末に飼っていた金魚にふと目が留まる。「汚れた水の中を泳ぐ姿を見てなぜか背筋がゾクっとしたんです。
なんて美しい存在なんだ、なぜ自分はいままで気づかなかったんだと思いました」。すぐに絵筆を執り金魚を描き始めた深堀さん。
「赤い絵の具でシュッと筆を走らせるだけで、金魚が泳いでいるように見える。その表現の楽しさ、面白さに、瞬時にのめりこんでいきました。進むべき道が見えた瞬間でした」。
そのできごとを深堀さんは“金魚救い”と呼び、以来、金魚を描くたびに当時憶えた感覚を思い起こし、作品に込めているのだという。

偶然の発見から生まれた表現手法

  代名詞ともいえる樹脂を使った立体作品は、偶然から生まれた。
「あるとき余った樹脂を型に流し込んでみたら、半分しか埋まらなかった。試しにそこに金魚を描き、さらに上から樹脂を流し込んでみたところ、金魚が本当に動き出したかのようにリアルに見えたんです」。試行錯誤の結果、層を重ねながら少しずつ描き足していくことで、2次元と3次元の中間のような絶妙な立体感を表現する手法を編み出した。
作品の美しさと超絶技巧、2.5次元の表現の面白さは海外でも評判となり、これまでにヨーロッパを始めアジア、アメリカにおいて個展を開催。
会場でライブペインティングを披露することもあるが、日本でも海外でも、絵が完成して金魚に命が宿る瞬間、観客がわっと湧くのだという。
「感極まって涙する人もいるんです。そんな風に人の心を動かすことができたときは、本当に嬉しい」と深堀さんは話す。
「金魚は僕にとって媒体であり翻訳者。これからも、美術が身近ではない人や言語や文化の異なる人にも、金魚という存在を通して、僕自身を表現していきたいですね」

5ミリ〜1センチほどの厚みになるまで樹脂を流し込み、2日経って硬化していればその上に胸びれ、腹びれを描く。
さらに樹脂を流し込み、次の層には胴体と尾びれを、また次の層には表面のうろこを描いていく。

樹脂は温度変化に弱く、特に気温が低いと固まりにくくなるため、かつては冬場に失敗することが多かったのだとか。
現在は温度調整されたアトリエで作業をしている。

「初出荷ー出目金」(2009) 桶や升に限らず、ときにはクツや、机のひきだしに金魚を描くことも。「ただ何にでも描くわけではなくて、じっと見ていて、その中で泳ぐ金魚の姿が見えたものだけを作品にしています」と深堀さん。

深堀 隆介(ふかほり・りゅうすけ)
愛知県生まれ。金魚の養魚で知られる弥富市近くで育つ。
愛知県立芸術大学卒業。1999年より創作を始める。
2007年横浜にアトリエ「金魚養画場」を開設。
現在、横浜美術大学客員教授、弥富市広報大使。

  • 次回2018秋号は9月上旬のお届けを予定しております。

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