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「理想の詩」創り出す人々(2019年春号)

デザインで架け橋になる

梶原さんが開発したレイヤージャカードは、兵庫県西脇市のメーカーと協業して製造し、市場に出ている。

独自技術をすたれさせない強い思いで製品づくり

異なる色や柄の布が縫い合わされたように見えるが、これは一枚の生地。レイヤージャカードといい、特殊な織り方でつくられる。「織物に関わる人ならだれでも想像がつく方法で織るのですが、実際に挑戦してみたくて」と話すのは、世界で初めてこの製法を確立したテキスタイルデザイナーの梶原加奈子さん。世界的に影響を持つデザインを手がけたいと赴いたロンドン留学時代、あるコンペにおいてこの布でグランプリを受賞した。
その後、海外で活動していたが、日本のテキスタイル産業が厳しい状況にあるという情報を受け、日本に戻って、高い技術を持ちながらも運営面で苦戦している工場と製品づくりに取り組み始めた。そして受注に頼るのではなく、自社の技術を生かした製品を、海外で販売するスタイルで成功を収める。
テキスタイルデザイナーは、本来、布の色、柄、素材、加工方法をトータルに考えるのが仕事だが、梶原さんはそこに留まらない。時代に合わせて求められる素材を考えるディレクター、世界の市場へ発信するプロデューサーとしても活躍している。
「日本独自の技術をすたれさせたくないんです」という思いを胸に各地の工場と手を組み、素材や製品の開発に挑戦し続けている。

癒やしや快適につながるテキスタイルデザインを

企業を相手にした仕事が多い梶原さんにとって、ストールやソックスなど一般消費者に向けた商品が揃うブランド、「gredecana(グリデカナ)」の仕事は貴重な経験となった。消費者の声を直接聞くことができたからだ。
その中で印象的だったのは、「身につける人が光や自然を感じる」、そして「元気になります」という言葉。
実は彼女の原点のひとつに、10代の終わりにフェリー乗務員として勤務していたときの夜明けの海の色がある。
「夜の海は人を不安にさせますが、夜が明けて光がさすと、次第に海が青くなるんです。この光が私に勇気をくれました」
以来、“光”は製品づくりにおける要素のひとつとなった。そして手に取る人の“幸せ”“元気”“明るさ”“楽しさ”をイメージしながら製品をつくっている。故郷である北海道の自然もまた、発想を刺激する存在であり、こうしたものから生まれる梶原さんのデザインは、人の心をやさしく揺らす。気持ちは伝わる、そしてテキスタイルデザインには癒やしの力がある、と梶原さんは確信している。
梶原さんはいま、テキスタイル業界の世界的なブランドから指名されるだけでなく、ホテルや商業施設のブランディングにまで関わっている。
「テキスタイルデザインは身の回りの多くのものと関係し、快適さなど目に見えない感覚的な部分にも携わることができる仕事なんです」と話す彼女の活躍は、多くの人やさまざまなものをつなぎ続けている。

パリで開かれる「プルミエール・ビジョン」は、世界最高峰レベルのテキスタイル見本市。2013年、梶原さんは、石川県能美市のメーカーと組んで低反発の素材にプリントを施し、グランプリを受賞した。

 大阪府のメーカーによる豚革に友禅染を施した素材。「友禅」と聞くと豪華な和服を想像しやすいが、友禅は染色技法のひとつ。柔らかくて軽く、摩擦に強い豚革にレトロ風の小紋柄を染めて現代風の素材

2010〜2018年まで梶原さんがテキスタイルデザインを手がけた「gredecana」は、“光”を感じさせるデザインが印象的

2017年、札幌郊外にオープンした「COQ」は、「クリエイションを呼吸する場所」という意味で名づけられた。梶原さんのアトリエがあるほか、ショップやレストラン、ホテルもあり、使用されているカーテンや絨毯、椅子はり、タオルなどは、もちろん梶原さんのデザイン。

梶原 加奈子(かじはら・かなこ)
北海道生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科を卒業し、株式会社イッセイミヤケ、テキスタイル企画を経て渡英。 ロンドンの大学院Royal College of Art(RCA) Fashion and Textiles, Constructed Textiles Weaveコ ースに学ぶ。06年自身のデザイン事務所「KAJIHARA DESIGN STUDIO」を設立。 ファッション小物やインテリアプロダクトの分野にも活動を広げ、 デザイナーや企業とのコラボレーションも展開している。

  • 次回2019夏号は6月上旬のお届けを予定しております。

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