HOME > 知る・学ぶ > 理想の詩 > 「理想の詩」創り出す人々(2020年夏号)

「理想の詩」創り出す人々(2020年夏号)

日本画の手法でとらえる命のきらめき

色彩豊かな翡翠かぼちゃ。栗原さんは「自然の造形物には、細部に虫食いがあったり傷みがある一方、これから伸びようとする新芽の膨らみもある。時間の経過が感じられるのが好きですね」と話す。

自然にあるコントラストを強調する

見慣れた自然の造形物が、何とも鮮やかな色彩を伴って目に飛び込んでくる。「これも日本画?」と思わせられるような、ポップで洒脱な作品を数多く発表しているのが、日本画家の栗原由子さんだ。「日本画で使用する顔料は貝殻や鉱石など天然素材のものが多く、砕き方によって色味が異なるので、ある意味で無限に色数があります。金箔や銀箔を使う工芸の要素もあるなど表現の幅が広いところが、自分には合っていました」と話す。
たとえば、ひょうたん型のフォルムが印象的な翡翠かぼちゃを描いた作品(写真中央)。実物はその名の通り美しい翡翠色(青みがかった緑色)が特徴の野菜だが、栗原さんの手にかかると、そこには細胞を思わせる無数の水玉、ピンクや黄色や白や紫の模様が表情豊かに描かれ、野菜そのものが持つ生命感が伝わってくる。「手の平を見ても、血管の紫や青や、赤みが強いところがありますよね。野菜や果物も同じでさまざまな色がある。そのコントラストを1、2段上げるような感覚です」と栗原さんは話す。

築地市場で購入し、描いたオコゼ。皮やうろこの質感、ヒレの模様に魅せられたという。
SNSで話題となった、疫病退散の伝説の妖怪「アマビエ」にもチャレンジ。
“無骨さと癖の強さ”に惹かれて描いたという柘榴(ザクロ)。

「よく見ること」それがモチーフへの作家の責任

美大出身だった母親の影響もあり、幼い頃から絵が好きだった栗原さんは、小学校の6年間をシンガポールで、高校の3年間をアメリカで過ごした。日本画に興味を持ったのは、アメリカにいた高2のとき。日本から祖母が送ってくれた福田平八郎(明治期の日本画家)の画集がきっかけだった。「日本画にもこんなモダンな表現が可能なんだと驚いた」という栗原さんは、帰国後大学で本格的に日本画を習得。長い海外生活で培った独特の色彩感覚を生かした、栗原さんならではの作風を築いていった。
もっともこだわるのは、対象物をよく見て、誠実に絵にすること。そのために、産地などのリサーチはもちろん、手元に置いて根や葉の生え方、ヘタのつき方などを徹底的にスケッチするなど、取材と観察を大切にしている。それが対象物に対する責任であり、作家として必要なものなのだと栗原さんは語る。
「ふだん見落としがちでも、よく見ればさまざまな表情を持つものが身の回りにはあります。私の絵をきっかけに、皆さんにもその面白さに気づいていただければ嬉しいですね」。

「日本画の顔料は天然素材だからなのか、一色一色が派手に見えて、仕上げると不思議に落ち着いたトーンになります」と栗原さん。
オーダーを受けた作品のために、伊豆のとある海岸をスケッチしたもの。海面ひとつとっても、栗原さんは多様な色を見出す。

栗原 由子(くりはら・ゆうこ)
1976年生まれ。小学生時代をシンガポール、中学時代を千葉、高校時代をアメリカなど各地で過ごす。筑波大学芸術専門学群日本画コースを経て、修士課程芸術研究科日本画専攻。卒業後、グラフィックデザイナーとして活動しながら作品を発表。2018年より専業の日本画家に。自身のホームページで個展情報などを紹介している。

『理想の詩』をお届けします。

本誌の定期送付(無料)をご希望の方は、ホームページの講読申し込みフォームまたは、ハガキに郵便番号、住所(希望送付先* 日本国内に限ります)、氏名(フリガナ)、電話番号をご記入の上、下記までお申し込みください。


・お申し込み先(ハガキ)
〒108-8385 東京都港区芝5-34-7 田町センタービル
理想科学工業株式会社 広報部『理想の詩』編集係

このページのトップへ