HOME > 知る・学ぶ > 理想の詩 > 「理想の詩」創り出す人々(2021年春号)

「理想の詩」創り出す人々(2021年春号)

時も文化も超えて伝わる表現

「あたらしい街を探すたび」。アメリカのイラストレーションコンペティション「3×3」で入選。「リソグラフ」による印刷に、シルクスクリーン印刷を重ねることで、奥行きを表現している。

チェコと日本を拠点に描くアニミズムの世界観

モダンな都市の風景から伝統的な民俗文化まで、どことなくヨーロッパの雰囲気をまとわせたタッチと目にも鮮やかな色使いで描き出す。モチーフには空想の生き物がごく自然に紛れ込んでいることも。洗練と幻想と温もりが同居する独特の作品を手がけるのは、東京とプラハを拠点に活躍するイラストレーターの松本沙希さん。

「もともと自然への畏怖や神道など日本古来の世界観に興味がありましたし、チェコの季節ごとの伝統行事や、動物や怪物をモチーフにしたマスクのパレードなどにも大きく触発されました。自分が描きたいものの本質にあるのは、そうした自然宗教的な世界なのだと思います」と、創作イメージの原点について話す。

松本さんは、日本のデザイン事務所勤務を経てイギリスの芸術大学に留学。その後より実践的な学びを求め、偶然見つけたのがチェコにある高名なプラハ工芸美術大学だった。

「検索して偶然見つけたんです(笑)。チェコの若いクリエーターたちと共に2年間学び、いまもチェコは創作の拠点となっています」。以来、チェコと日本を行き来しながら、各国で開催される展示会への参加から、商業ポスターや絵本の挿絵、パッケージイラストを手がけるなど、世界を舞台に幅広く活躍している。

Production: Hobulet, magazine of Prague 7/ Art District 7 Graphic designer: 20YY Designers

作品名は「Gorazdova 31,Bratislava」。スロバキアの隠れた工業建築を発掘、発表している印刷所/プロダクション Čierne dieryとコラボレーションし、建築をテーマにリソグラフで制作した。

 プラハ7区のタブロイド紙Hobuletのチェコスロバキア建国100周年記念号表紙用に作成したイラスト。中央にはチェコの紋章にも使われるライオン像を、左右に国の植物であるリーパをあしらった。本作品もアメリカのイラストレーションコンペティション「3×3」で入選。

版を重ねて生まれる色の奥行きを大事にしたい

作品によって水彩やアクリル絵の具、デジタル、ペンなどを使い分ける松本さんだが、プラハ工芸美術大学在学中に知ったという「リソグラフ」も重要な創作ツールだ。「教授に勧められて使ってみたんですが、仕上がりのテクスチャーが非常に面白く、奥が深いと感じました。学内でも『リソグラフ』人気は高く、予約しないと使えなかったんですよ」と振り返る。デジタルツールを用いる場合も、版分けを意識して描くという松本さん。「日本では珍しいですが、現地では版を分けてイラストレーションにする手法は一般的。同じ紫でも、最初から紫色で塗った場合と、青と赤の版を重ねてつくった紫色は表情が異なります。その微妙な色の奥行きを大事にしたいんです」と話す。

日本とチェコ両方にクライアントを持ち、展覧会への出展はグローバルで、その先々で入賞歴がある。松本さんの作品は国も文化も超えて見る人を魅了している。

「コロナで大変な時代、絵描きは何の役にも立てないと思っていました。でも絵には気分を明るく変えたり、イマジネーションを与える力がある。社会に充分貢献しているはずだと言われたことがあり、嬉しく思いました。これからもそういう気持ちで創作を続けたいですね」

チェコの謝肉祭「マソプスト」と日本の古事記を題材に、ライターの友人と共同制作した絵本『ロスト・スプリング』。初めて本格的に「リソグラフ」を活用した。

松本 沙希(まつもと・さき)
東京農業大学、桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン卒。MJイラストレーション修了。グラフィックデザイナーとして就業後、渡英、のちプラハ工芸美術大学(UMPRUM)イラストレーショングラフィック科修士課程を修了。チェコ親善アンバサダー。

『理想の詩』をお届けします。

本誌の定期送付(無料)をご希望の方は、ホームページの講読申し込みフォームまたは、ハガキに郵便番号、住所(希望送付先* 日本国内に限ります)、氏名(フリガナ)、電話番号をご記入の上、下記までお申し込みください。


・お申し込み先(ハガキ)
〒108-8385 東京都港区芝5-34-7 田町センタービル
理想科学工業株式会社 広報部『理想の詩』編集係

このページのトップへ