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「理想の詩」創り出す人々(2021年夏号)

切り抜き描く生命の姿

「海蛸子」。受注作品の場合、既存の作品の写真から新たに切り起こすが、基本的に作品はすべて1点もの。「少なくとも原本にはコピー機などのデジタルを介在させたくない」と福田さん。

「ファンアートに終わらせない」と発奮

それが「切り絵」であると知らなければ、一体いま自分が何を目にしているのか、混乱してしまうような動画がある。手の平に乗せられた、まるでレースのように繊細で緻密な「絵」。しかし手をゆっくりと揺らすことで、絵そのものがまるで生きているかのような存在感をもって立ち現れる。2017年以降SNSに投稿された、切り絵作品のいくつかの“手乗せ”動画は、海外メディアにも取り上げられ大きな話題になった。その切り絵作品のつくり手が、福田理代さん。1枚の紙とカッターというシンプルな道具で、切り絵のイメージを覆すような驚異的な作品を生み出し続けている。「動植物でも鉱物でも昆虫でも、見事に緻密な構造、美しい自然の造形などに触れたとき、『私もこういうものがつくりたい!』と思うんです」

もともと絵を描くのが好きで、独学で切り絵を極めていった福田さん。高校時代、友人宛のバースデーカードをハート型に切り抜き、喜ばれたことから、紙を切って表現する楽しさを知ったという。美術系の短大に進み、卒業後は一般企業に就職するが、趣味としての切り絵制作をやめることはなかった。

「短大の提出物も可能な限り切り絵で出していました。そのときにはもう、切り絵は自分が一番得意な表現方法になっていましたね」

その後、あるきっかけで、応援していたアーティスト、平沢進さんのお兄さんに自作を披露。そこでもらった「これだけの技術をファンアートで終わらせてはだめだよ」との言葉から、一念発起。切り絵を本格的に追求するようになった。

いまも一般企業に勤務する福田さん。睡眠時間がなるべく犠牲にならないよう、早朝から出勤前の時間を創作にあてているという。

「技術的には、1枚の紙を、カッターの切り口だけで表現することにこだわりたい。影や色をつけるとか、折るといったことは考えていません」と福田さん。

カッター(デザインナイフ)は、切れ味に少しでも変化を感じたら刃を替える。手元を照らすライトや誤って切ってしまった場合ののりも欠かせない。
 

生き物の淡々と生きる姿をとらえたい

白と黒のバランスを考えながら図案を練る工程は、作品の出来に直結するため、もっとも頭を悩ませられるという。下絵が完成すると、一本一本の線にカッターを添わせ、まるで写経のような、“無の境地”で切り抜いていく。切り口の圧倒的な精緻さに驚かされるが、切る工程はもっとも楽しく、時間を忘れて没頭できるのだとか。

こだわっているのは、モチーフとなる生き物を無表情にすることだという。「笑顔や悲しそうな顔など生き物に表情をつけたくなるのは、人間の一方的な願望。生き物はただ淡々と、粛々と、目の前の環境を見据え生きているはずです。その姿を描きたい」と福田さん。

あるときかけられた「切り絵はアートではない」との言葉には、違和感を覚える。「私自身は切り絵作家でありアーティストであると考えています。アートとして認めてもらえるような作品をこれからもつくっていきたい」と語る。

唯一無二のアーティストの手から生み出される超絶技巧に、今後も注目したい。

「鳥の女王(ヒクイドリ)」。福田さんこだわりの“無表情”の目線。作品にさらなる迫力、凄みを与えている。

福田 理代(ふくだ・まさよ)
1973年生まれ。普段は一般企業に勤務しながら、切り絵作品を手がけ続ける。2017年、切り絵を手に乗せ撮影した動画が大きな話題となり、国内外から注目を集める。趣味だった「切り絵」と「剣玉」を合成した「切り剣Masayo」の名義でも活動。2020年、初の作品集『切り剣〜福田理代切り絵作品集』(国書刊行会)を刊行。

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