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「理想の詩」創り出す人々(2021年秋号)

かき分け進む、道なき工作道

2017年、「ハトヒール」は、海外メディアに取り上げられるや否や、瞬く間にネット上で話題になった。

妄想を具現化し、作品へと昇華させる

見た目のインパクトで思わず二度見をし、意味がわかると「ふふっ」と笑いがこぼれてしまう。日常にある物事や現象からユニークな妄想を膨らませ、工作という形で具現化してしまうのが、その名も妄想工作家の乙幡啓子さん。「あるコピーライターさんに“暴走する知性”と称されたこともありますが、確かに思考を暴走させるのは得意かもしれません(笑)」。似たようなアイデアを思いつく人はいたとしても、ここまでの完成度に昇華させてしまえるのは、乙幡さんをおいてほかにいない。そんなユニークな存在だ。

遠目で見ると魚の干物だが、実はペンケースになっている「魚ケース」。ファスナーを開けてみると、いかにもおいしそうな匂いが漂ってきそうな、焼きあがった干物の姿が。福島の郷土玩具「赤べこ」と思いきや、よく見ると頭の数が多かったり、羽が生えていたり。ギリシャ神話に登場する獣と合体させた、その名も「ケルベコス」。「ジー」というセミの声をゼンマイの巻き戻る音だけで表現した「セミナ〜ル」。住宅街の塀に顔だけ挟まってしまった柴犬をモチーフに、さまざまなモノに挟ませた「挟まり犬」。工作のもとになっている数々のひらめきは、一体どうやって生まれるのだろうか。「面白いネタを絞りだそうと頭を悩ませているときはかえって難しいもので、意外と入浴中や散歩中など、何も考えていないときにアイデアが浮かぶことが多い。思いもよらない発想の飛躍、意外性に、くすっと笑ってもらえたら嬉しいですね」

写真右から、取材時も身に着けていた「お湯吐きライオンブローチ」。“格調高いバカバカしさ”と本人評。モーセ型のチャームを開けると海が割れていく「モーセの奇跡ポーチ」は海外のキリスト教圏でも話題になったそう。ほっけ、ほたて、さんま、鯛、あじ、きんめが揃った「魚ケース」。

3つの頭を持つ「ケルベコス」ほか、「ユニベコーン」や「ベコサス」、果ては「ヤマタノベコ」などさまざまな神話の生き物たちと赤べこを合体させた「神獣ベコ」シリーズ。

ポップなカラーバリエーションの「セミナ〜ル」。ゼンマイを回すと鳴る「ジー」という音を楽しむことに特化したマスコット。特に動きはない。

ほかにないものをつくることこそが創作の魅力

工作家としての活動の起点になったのは、意外にも長年ライターとして携わってきたウェブメディアでの連載記事だ。20年近くにわたり、さまざまなテーマを掘り下げては、クスリと笑える記事を執筆してきた。「当初は“〇〇をやってみた”という体験記事が中心でしたが、次第にネタに行き詰まるようになり、もともと得意だった工作で自作してしまうことにしたんです」。以来、シリコンや粘土、毛糸、食材とあらゆる素材を駆使し、妄想を形にしていった。工作のいくつかは見た目のインパクトや構想のユニークさがSNSで大きな話題となり、その評判が海外へと広く拡散された作品も。そしていまも、世の中にただ一人の“妄想工作家”としてそのキャリアを重ねている。

創作の魅力は何かという問いに、「ほかにないものをつくるという点に尽きる」と乙幡さん。「こんなものをつくるのは私くらいだろう、というものに出合えたときの喜びは大きいですね。これからも道しるべのない工作という道を、かき分けかき分け、進んでいきたいです」

ブロック塀のほか、ドーナツや浮世絵、富士山などさまざまなモノに頭が挟まってしまった「挟まり犬」シリーズ。なんともいえない表情がかわいらしい。原案を乙幡さんが担当。

乙幡 啓子(おつはた・けいこ)
群馬県生まれ。津田塾大学卒業。ウェブメディア「デイリーポータルZ」にて人気記事を手がける。雑貨企画・製作レーベル「妄想工作所」主宰。第2回「雑貨大賞」にて、「湖面から突き出た足 製氷器」が大賞、「餃子リバーシ」があそび部門賞を受賞。「乙幡脳大博覧会」(アールズ出版)、DVD「また、つまらぬ物を作ってしまった」(ポニーキャニオン)などがある。

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