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「理想の詩」創り出す人々(2021年冬号)

粒を連ねて描く新しい刺繍の世界

かわいらしい動物たちに、日常会話の吹き出し。ユニークなモチーフに、見た人が楽しい気持ちになったり、くすっと笑ってしまうなど、“会話のきっかけ”になるような作品づくりを心がけているという。

デザイナーのイメージを刺繍で形にする技術

シャネルやディオールといったハイブランドで知られる、一点物の高級仕立服「オートクチュール」。デザイナーたちの類まれなる創造性から生み出され、最高の素材、技術で具現化されたドレスをしばしば美しく彩るのが、ビーズや糸、リボンなどを用いた「オートクチュール刺繍」だ。小林モー子さんは、パリにあるオートクチュール刺繍専門学校でその技法を習得。ユニークな刺繍アクセサリーで人気を博すと同時に、刺繍を用いたアート作品の制作や刺繍教室を主宰するなど、オートクチュール刺繍の世界を伝え続けている。

「デザイナーが描いたイメージを形にするのがオートクチュール刺繍ですから、ときにはビニールや羽根、木の皮を使うことだってあります。特定のセオリーに縛られることなく、素材も技法も表現も自由に進化する可能性を秘めているのが大きな魅力です」。そう小林さんは語る。

なかでも小林さんの代名詞となっているのが、ビンテージビーズを使った刺繍アクセサリーだ。動物や生活雑貨、日常会話の吹き出しなど遊び心満載のモチーフを、主に1930年代産の粒の小さなビーズを使い、繊細な手仕事で描いていく。見るとワクワクし、思わず笑顔になってしまうアクセサリー類は、百貨店などで取り扱われるや瞬く間に多くの人の心を掴み、熱心なファンを生み続けている。

 「クロッシェ」という特殊なかぎ針の針先に糸を引っ掛け、刺繍枠の裏側からビーズを一粒ずつ刺していく。非常に高度で繊細な職人技術だ。

 1930年代に生産されたビンテージビーズは粒が小さい分細かな表現ができる。形や色が不均等なものもあるが、それも味わいになる。

絵画作品やクッションなど立体作品も。「アクセサリーほどサイズに制約がないので、より自由に絵を描ける感覚で楽しいですね。今後はもっと絵画作品を増やしていけたら」

刺繍のイメージを一新したい

小林さんがオートクチュール刺繍に初めて出会ったのは、ファッションの勉強をしていた文化服装学院の卒業間近のこと。ある展示で目にし、「一体どうやってつくっているんだろう?」と衝撃を受けた小林さん。その謎を解明したい一心で渡仏し、パリの専門学校で刺繍技術の習得に没頭する。一方で自分らしい表現も模索していた折、現地で知り合った画家・大月雄二郎氏の提案で、氏の描いた絵に刺繍することに。それを目にしたギャラリストから2人展を持ちかけられ、初めて幼い頃からのニックネームであった“小林モー子”の名前で作品を発表することとなった。その後もパリを拠点としていたが、展示イベントやブログを通して日本での反響も広がりつつあったことから、帰国。自身のアトリエを開設し、以来、さまざまな仕事を通し多くの作品を世に送り出している。

「大月さんからいただいたアドバイスで心に留めているのは、必ず依頼主の期待以上のものを提示すること。いつも新しい技術や表現に挑戦したいと思っています」と小林さん。また、従来の刺繍のイメージを一新したい、とも。「刺繍ってとにかく制限がなく、何でも自由に表現できる手段なんです。この世界の広さ、奥深さをもっとたくさんの人に知ってほしいですね」

動きの瞬間をとらえたモチーフも印象的。絵の具のブローチは、中身が出ている部分が揺れるのがポイント。「基本的にブローチは服に固定されているものなので、部分的に揺れるとつい目が行くんですよね」と小林さん。

小林 モー子(こばやし・もーこ)
文化服装学院アパレル技術科卒業。服飾メーカーにてパタンナーとして勤務後、2004年に渡仏。パリの「エコール・ルサージュ」でオートクチュール刺繍の技法を学ぶ。2005年大月雄二郎氏とのコラボレーションを開始。2010年帰国し、アトリエ「メゾン・デ・ペルル」開設。オートクチュール刺繍の教室、刺繍アクセサリー制作などを通じオートクチュール刺繍の世界を伝えるべく活動を展開している。

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