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「理想の詩」創り出す人々(2022年秋号)

陰影に煌めく伝統の金色

Landscape#50‐岐阜楽市楽座図‐ 2021(200×500cm)
岐阜の中心地を見下ろした鳥観図。岐阜市役所に設置されている。中央を流れるのは長良川。

家業の伝統技術を生かし独自のジャンルを確立

まばゆいほどの黄金色や、落ち着いた渋みのある輝きの中に感じられるのは、都市や自然といったモチーフの確かな息遣い。光の加減や見る角度によってその表情はくるくる変わり、思わず目を凝らすうち、まるで絵の世界に吸い込まれてしまうような不思議な引力を持つ。それが、野口琢郎さんの手がける「箔画」だ。

野口さんが拠点とするのは、京都・西陣にある京町家「箔屋野口」。漆を塗った和紙に金箔をはり、細く裁断した後、西陣織の帯の横糸として織り込まれる「引箔(平金糸とも)」づくりを代々営んできた。しかし近年、技術の進化とともに、高度な手仕事である引箔づくりも機械化が進む。さらに和装文化の衰退もあり、家業は厳しい経営状況にあった。

一方、高校、大学で油絵を専攻した野口さんは、一度絵を離れ、長崎で高名な写真家のもとに弟子入りする。しかしその間、家業への思いや自分らしい表現への欲求が募り、再び京都へ。「一度は家を継ぐ決意をしました。でも西陣を取り巻く環境はあまりにも厳しかった。だったらもともと好きだった絵を描くことの方に可能性をかけてみよう、と思ったんです」

そして、引箔の技術を生かし、箔を中心にさまざまな素材を活用して絵を描く「箔画」を考案。絵と写真の両方から学んだデッサン力や構図、そして受け継いできた伝統技術を掛け合わせ、独自のジャンルを確立させた。

主に使用するのは金箔やプラチナ箔、銀箔。赤や青や黄の部分は加熱による化学変化で変色させた銀箔を、黒には石炭の粉末を使っている。

箔を扱うのに欠かせないピンセットのほか、余分な箔を取り除いたり、一度打った箔の表面を引っかいたりするのに使う道具類。竹製の箸も長年使用するうちすっかり金色に。

理屈抜きで人の心に響く作品を

ライフワークともいえるのが、大好きな空と海を描いたシリーズと、幾何学状のモザイク模様で都市の心象風景を描いた「Landscape」のシリーズだ。そして近年の代表作が、既存の街並みを俯瞰的構図でとらえた、横幅が数メートルにもなる壁画の大作だ。その輝きと迫力に思わず目を奪われるのはもちろん、よく見るとその土地ならではのランドマークやゆかりのシンボルが隠されており、細かなディテールも楽しめる。

「コンセプトありきではなく、理屈抜きで、人の心に響くものがつくれたら。刺激になったり癒されたり、見た人の心が何かしら豊かになるような作品を目指したいですね」

唯一無二の輝きを放つ野口さんの作品の魅力を、ぜひその目で確かめてほしい。

Azure 2021(53.5×115cm)
野口さんが特に好きでよく訪れていたというのが、沖縄の海。眺めているうちにイメージがわいてくることも多々あったという。

Landscape#45 2018(137.3×112.1cm)
子どもの頃から何度も観に行った琵琶湖花火大会の圧巻のフィナーレをイメージした。

野口 琢郎(のぐち・たくろう)
1975年京都市生まれ。京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家の故・東松照明氏の助手に。2001年より箔画の制作を開始。これまで毎年の個展開催ほか国内外でのアートフェアに多数出展。また実父の康氏も箔画制作をしており、「箔屋野口」の屋号のもと親子2人が腕を競い合っている。

ホームページ http://noguchi-takuro.com/




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