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「理想の詩」創り出す人々(2023年秋号)

アートで目指す循環社会の実現

名画シリーズのひとつ、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」。日本の伝統織物も随所に使われている。

同じく名画シリーズ。アンリ・マティス「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」をキメコミアートで再現した。

廃材を使ったオリジナルのアート表現

服をつくる際に余ってしまう布の端材を使った、まったく新しい表現「キメコミアート」を生み出したのが、アーティストのイワミズアサコさん。ポップでカラフルな色合いや、平面でも不思議な奥行きを感じさせる布の素材感など、一見してぱっと目を引く個性と、注視して細部を観察したくなる面白さがある。
高校時代にアートを学び、その後ファッション業界でデザインの仕事をしていたイワミズさんだが、安価な洋服を大量生産し大量消費するファストファッションブームが世界を席巻し始め、ファッション業界で仕事を続けていく限界を感じたという。「自分が本当にやりたいことは何だろうとあらためて考えた結果、アートを通した自己表現だと気づいたんです」とイワミズさん。その後さまざまな画材や手法を使い自己流の表現を模索する日々が続いた。「布を使って何かできないだろうかとはずっと考えていました。そんなある日、思いつきで、たまたま家にあった発泡スチロールに絵を描き、デザインナイフで切れ目を入れて端材の布を入れてみたんです。すぐに『これだ』と思いました」。仕上がりの面白さに気づいたイワミズさんは、ファッション業界の知人に不要な布がないか声をかけ、続々と届いた箱一杯の布を使って作品をつくるように。日本の伝統工芸品である木目込み人形と、溝に布を入れ込んでいく手法が似ていることから、キメコミアートと命名した。

さまざまな協力先から提供される、素材も色も多彩な端材。ファッションで培った知見から、どの作品にどの布が使えそうかすぐに判断できるという。

発泡スチロールの上にデザインを描いた後は、デザインナイフで切り込みを入れ、その後刃の背の部分を使って布を“キメコんで”いく。

表現することへの思い、ファッション業界で感じた矛盾…それまで点だったものが、キメコミアートに出合えたおかげで線になっていったとイワミズさん。

キメコミアートに込めた「循環」と「学び」というテーマ

これまで、抵抗を感じつつもたくさんの端材を廃棄せざるを得なかった人たちが、イワミズさんの活動を知り端材の提供に協力してくれるのだそう。「長年端材を有効活用できないだろうかと悩んでこられた洋服のつくり手の方々が、素材を送ってくれては『アートにしてくれて本当にありがとう』と言ってくれるんです。とても嬉しいですね」。
イワミズさんの地元・福岡の久留米絣に代表されるような伝統織物など、担い手が減る中、何とか産業を再興させ、技術を継承しようと苦心している産業とも積極的にコラボレーションを続けている。また、絶滅危惧種の動物たちをモチーフにしたシリーズ作品の制作にも本格的に取り組み始めたところだ。「作品を楽しんでもらいながら、素材の背景にあるストーリーや、私たちが住むこの世界が抱える課題についても知ってもらえたら」とイワミズさん。「限りある資源を『循環』させながら『学び』も提供できるようなアートを、これからも生んでいきたいですね」。

色選びで悩むことはほぼない。その時々の直感を信じるのだそう。

イワミズ アサコ
ファッション業界でコレクションブランドやコスチュームのデザイナーを経て、2008年より本格的にアーティストとしての活動を開始。フランスや台湾など国内外で個展やグループ展を行い、複数の賞を受賞。2016年よりキメコミアートの創作をスタート。キメコミアートの世界を広げていくべく、個展やワークショップ、各種イベントの開催、キメコミアート教室主催など精力的に活動を展開している。

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