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「理想の詩」創り出す人々(2024年夏号)
見て感じて味わう時の流れ


左から、自立型、フレンチサンドグラス、金属枠タイプの砂時計。
ガラス管をバーナーで熱しながら、くびれの部分(オリフィス)をつくっていく。
若かりし頃の金子さんが父親と共に製造にあたっていたという「エッグタイマー」。1点だけ残った未開封の商品が大切に保管されていた。
正確性にこだわった手づくりの砂時計
透き通ったひょうたん型のガラスの中心を、さらさらと流れ落ちていく一筋の砂。美しい砂の流れをぼんやりと眺めるうちにふと心が安らぎ、癒される。一定の時間を測る実用面もさることながら、時の流れを目で見て、感じることのできる砂時計には、デジタルにはない不思議な魅力がある。
東京・葛飾区で長年ガラス工房を営む金子實さんは、弟の治郎さんと合わせて日本で2人しかいない、ひょうたん型の砂時計専門職人だ。その味わいある手づくりの砂時計を求めて、個人から企業までさまざまな注文が舞い込んでくるという。
戦後間もない頃から、研究用の理化学ガラス機器をつくっていたという金子さんの父親のもとに、あるとき、アメリカへの輸出用の3分砂時計をつくってほしいという依頼が舞い込んでくる。「当時日本では砂時計は一般的ではなかったので、親父はつくり方、材料からすべてを研究して、試行錯誤していました」。金子さんの父親の手でつくられたゆで卵用の「エッグタイマー」はアメリカで好評を得て、その後工房の主力製品に。外注先の協力も得ながら、最盛期で月3万個を製造、輸出していたそうだ。
やがて、ある計量器会社からの依頼を受けて、正確な時間にこだわった砂時計の製造に着手することに。ガラスビーズや人工砂などさまざまな素材の砂を試した結果、もっとも時間に誤差が出ない砂鉄にたどり着いた。1分に対してプラスマイナス1秒の誤差に収めることにこだわった砂鉄を使った砂時計は、現在のスタンダード製品となっていく。


左右に息を吹き込んでひょうたん型に成形する。身体で習得するしかない職人技術だ。「手づくりにしか出せないぬくもりを感じてもらえるはず」と金子さん。
色付きの砂や、ラピスラズリやルビーといった宝石、ガラス、珊瑚、鉄鋼スラグなど、砂時計に使われる素材はさまざま。いずれも細かい砂粒状に精製して使用する。
流れる砂を見ながら記憶に思いを馳せる
オーダーメイドの注文も少なくない同工房には、旅行先の砂をはじめ、甲子園の砂やペットの遺骨、あるいは南方で戦死した方の遺族が遺骨代わりに拾ってきた海岸の砂など、さまざまな素材を使って砂時計を製作してほしいという依頼がやってくる。「東日本大震災の影響で稲作ができなくなってしまった農家の娘さんから、”父がつくった最後のお米“を砂時計にしてほしいという依頼もありました」と金子さん。依頼の背景にあるエピソードを聞き、”なんとか形に残したい“というそれぞれの思いを受け止め、金子さんはガラスの中に閉じ込めていく。流れる砂を見つめるその時間が、依頼者にとっては大切な記憶に思いを馳せるかけがえのない時間になっていることだろう。
現在は3代目となる息子さんと共に製造現場に立つ金子さん。「昔は、こんな仕事を続けられるのかなと思ったこともありましたが、時代が移り変わっても砂時計がいいと言ってくれる人は必ずいた。この先もなくならないと思います」。


網目の異なる何種類かのふるいを使い、細かい粒子を取り出していく。
ガラスの中に砂鉄を入れ、分数を計測する。最後に枠をはめて完成となる。

金子 實(かねこ・みのる)
1946年生まれ。高校卒業後に家業を手伝いながら、ガラス加工技術を学ぶ。現在は3代目の勲さんと製造にあたっている。一般的な砂時計のほか、オーダーメイドの1点ものや企業の記念品、ノベルティ、紅茶やコーヒーなどの抽出時間計測に使う1分計、5分計などさまざまなオーダーに対応している。
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理想科学工業株式会社 広報部『理想の詩』編集係