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「理想の詩」創り出す人々(2024年秋号)

心打つ、唯一無二の存在感を求めて

SNSを賑わせた韋駄天像。仏舎利を鬼から取り返し帰還した瞬間の、躍動感ある衣を表現。

仏像彫刻には表情や指の形を定めた「儀軌」といわれる平安時代からの規則があるが、ある程度の自由が許されるのが衣の部分。そこに宮本さんならではの表現が光る。

ファッションから伝統工芸の世界へ転身

仏像や神像を新たに彫ったり、修復を行う仏師という仕事。宮本我休さんは、2022年、SNSに投稿したある作品が”かっこいい”と反響を呼び話題となった京仏師だ。「目指しているのは、現代にも千年先にも受け入れられる”至高の仏”。いまを生きる人たちから手応えを得られたことには大きな意味がある」と話す。
宮本さんの手がける神仏像の特徴は、その異色の経歴と大きな関連がある。仏師の仕事と出合うまでの宮本さんは、ファッションデザインやイラストレーションの世界に身を置いていた。オートクチュールの世界に憧れ、特待生として東京のファッション専門学校に入学したものの、自分だけの表現を求めて、休学。故郷の京都へ戻り、イラストや抽象画を描きながら将来を模索していた。そんなとき、兄の知り合いの仏像彫刻工房が、仏像の衣の柄を描ける人を探していると聞き、手伝うことに。「ファッションは流行に伴って変遷する回転の早いものづくりですが、そこでは千年後を見据えたものづくりが行われていた。衝撃でした」。すぐに弟子入りを志願したが、すでに25歳。若年からの修行が当たり前の伝統工芸の世界では、遅すぎるスタートだった。「それを慮ってか、師匠である仏師と位牌師の兄弟は、手取り足取りマンツーマンで指導してくれました」。
9年の修行を経て独立。服飾研究で培った、衣のドレープや肉体のリアルで生き生きとした表現力が評判に。
独立後9年目となる今年は、京都で最古の神社、賀茂御祖神社(下鴨神社)の獅子狛像を新たに造立するという大役も果たした。

依頼主とイメージの共有を行うために描かれた原寸大の下絵。制作においては、すでに頭の中に完成図があるので下絵は必要ないのだとか。

毘沙門天の姿に彫っていく前の原型。「木彫はやり直しの効かない勝負。その緊張感からしか生まれない“神性”がある」と宮本さん。

廃材から仏像を彫り出した初仕事

独立当初、仕事がなかなか来ず途方に暮れていた中、とあるお寺から”火事で家が全焼してしまった檀家さんをお見舞いするため、焼け残った廃材から仏像をつくってほしい”という依頼が来る。「廃材から見つけたケヤキの大黒柱を削ってみると、中はとても瑞々しかった。お釈迦様をつくってお納めしたところ、心から喜んでもらえました。忘れられない仕事です」。以来、仕事が軌道に乗るようになったという。
「仏像の役割は、見た人に”きっと自分を守ってくれる””救ってくれる”と思ってもらうこと。これからも、人の心を掴む、拠り所となる圧倒的な存在感を表現していけたら」。稀代の名仏師は千年後を見据えどんな仕事を残していくのか。注目したい。

賀茂御祖神社(下鴨神社)にて150年ぶりの新調となった獅子狛像。制作には1年半をかけた。狛犬には、日本で最後の職人の1人が手がけたプラチナ箔が使用されている。

宮本 我休(みやもと・がきゅう)
京都生まれの仏師。ファッションを学んだ後、仏像彫刻工房にて仏像の彩色を手がけたことをきっかけに仏像彫刻の世界に入る。2015年に工房「宮本工藝」を設立。仏像・仏具彫刻、修復のほか木彫刻全般の研究、制作を行う。「仏像を彫るには我が強すぎる」との師匠の戒めを忘れないよう、「我」を「休」すという名にした。
公式サイト/https://gakyu.jp/

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