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「理想の詩」創り出す人々(2025年夏号)
目にも美味なる和みの菓子

目にも涼やかな夏の和菓子たち。幻想的な「天の川」(左)は羽二重餅製。練り切り製の「花菖蒲」(右)は写実的な表現。
和菓子にこめられた日本文化らしさを海外に出て初めて実感
色鮮やかな6色の練り切り餡を、まるで流れるような手つきで造形し、ヘラを使って細かな溝を幾重にも入れていく。中央に仕上げの金粉を施し完成したのは、大輪の花火をイメージした、目にも鮮やかな代表作「宵花火」だ。
どこまでも精緻な細工と美しいデザインで見る人を惹きつけ、SNSを中心に話題となっているのが、三納寛之さんの手による和菓子。三納さんは暖簾が大きな意味を持つ和菓子業界において、実店舗を持たない異例のフリーランスとして活躍する和菓子職人だ。
愛知県で二代続く和菓子店の長男として生まれた三納さん。高校卒業後、県内の老舗和菓子店に弟子入りし、6年間修業した後、家業を継ごうと実家に戻る。「ところが、細かい製法などでどうしても父親とぶつかってしまって。このままではなりたい自分になれないと考え、思い切って家を出ました」。
その後、和菓子メーカーの工場長として勤務するかたわら、個人として各種コンテストに挑戦。全国的な技術コンテストでグランプリを獲得したのがきっかけで、講師として海外での和菓子ワークショップに赴くことに。「その時訪れたフランスで、おはぎを食べた男性がものすごく感激していたんです。見栄えだけじゃなく味でもこんなに喜んでもらえるんだと驚きました。和菓子が体現する日本文化ならではの繊細さや豊かさにも、初めて気づくことができました」。
SNSに投稿した自作の和菓子も反響を呼び始め、フォロワーも問い合わせも日ごとに増えていくのを受け、独立を決意。和菓子店経営の難しさを熟知していた三納さんは、店舗を持つのではなく、ネット販売一本のスタイルを選択した。
自分にしかできない和菓子を生み出していきたい
「和菓子の中でも、もっとも技術やセンスが問われるのが上生菓子。そこに僕の強みもあります」と三納さん。和菓子は、生菓子や干菓子など水分量で分類されるが、主に茶席で使われる上質なものを上生菓子と呼ぶ。
一般的に定番のデザインが多い上生菓子だが、三納さんは、花鳥風月はもちろん、クリスマスやバレンタインなど、季節のテーマに合わせて自在に味や造形をつくり出す。ひとつひとつの作品が宝石のようなきらめきを放ち、口にすれば、意外な味わいに思わず顔がほころぶ。
「あえて型にはまらずに、たくさんの人が喜んでくれる、僕にしかつくれない和菓子で勝負したい。僕の作品を通して和菓子の魅力に触れ、一人でも多くの人に日本文化の豊かさ、美しさを知ってもらえたら嬉しいですね」。
気鋭の職人が生み出す唯一無二の和菓子の世界。ぜひ一度体験してみてはいかがだろうか。



三納さんの代名詞にもなった「宵花火」。2019年の投稿には約8万の「いいね」がつくなど話題を呼んだ。
レモン風味の餡でパイナップルを包んだ「爽果 -Soka-」。


さまざまなバリエーションがある「金魚」は夏の定番だ。
伝統的な道具類は主に桜の木が用いられている。竹やシリコン、金属などを使い、作品に合わせて自作することも。

三納 寛之(さんのう・ひろゆき)
愛知県瀬戸市生まれ。2011年に全国菓子研究団体連合会技術コンテストで総合1位、グランプリを受賞。2016〜2017年、フランス、ドイツ、中国で開催された和菓子セミナーで講師を務める。2019年、フリーの和菓子職人として独立。ネット注文のほか、国内外で開催されるワークショップや販売会などで三納さんの和菓子に出会える。
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理想科学工業株式会社 広報部『理想の詩』編集係