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「理想の詩」創り出す人々(2025年秋号)
刺繍で追求する3次元の表現

一番人気で、ピエニシエニさんの代名詞でもあるのがベニテングダケの作品(写真一番右)。傘のドーム型の部分の成型にもっとも苦労したのだとか。
枠を使わないオフフープ®立体刺繍の誕生
鮮やかな色彩に繊細で美しい造形、キノコや昆虫といったユニークなモチーフ……。刺繍糸とフェルトから生み出される、表情豊かで独特の世界観が見る人を惹きつけてやまないのが、PieniSieni(ピエニシエニ)さんの手がける立体刺繍。独学で身につけた刺繍技術を基点にこれまでさまざまな技法を考案し、一般的な刺繍のイメージを覆すアート性の高い作品を生み続けている。
「かわいいだけ、きれいなだけのものはつくりたくないんです。少し揺らぎや毒気があるものに私自身も惹かれます。だから、作品を見て”変わってるね“と言われるのが一番の誉め言葉かもしれません(笑)」と話す。
大学では理工学部に所属し、就職した電機メーカーでは設計エンジニアだったピエニシエニさん。刺繍の世界に足を踏み入れたのはまったくの偶然だった。
「夫の海外赴任で一度仕事を辞めたのですが、ゆくゆくは復職するつもりでした。ところが帰国後に病気がわかり、復職を諦めざるを得なくなって。だったら興味のあった手芸に本格的に取り組んでみようと、自宅のインテリアに合わせてカーテンやクッションなどを自作していったんです」。
そのうち、シートフェルトでつくった花の飾りや雑貨類の写真とともに、つくり方をブログで紹介するようになると、アクセス数が急増。思わぬ反響に驚きながらも、作品を披露して喜んでもらえることの面白さに目覚め、制作に没頭するようになる。やがて、60色というシートフェルトの色数に限界を感じはじめたピエニシエニさんは、もっと自由な表現を追い求め、刺繍糸を組み合わせ、より立体的な造形にもチャレンジ。そして、刺繍枠(フープ)を使わない「オフフープ技法」による立体刺繍の考案へとつながっていった。
新たな技術を生み出す困難と喜び
「できないことを可能にするために、新しい技術を生み出すことが、最大の難関でもあり喜び」と話すピエニシエニさん。「そもそも、つくりかたや組み立て方、最適化の方法を考えるのが好きなんです。エンジニア的な性質も生きているのかもしれません」と続ける。
表現の幅をさらに拡大させるため、ビーズやワイヤーといった素材を組み合わせる技術や、針を使わずに造形する手法も独学で習得。一貫して、表現したいものが出てくると、どうやったらそれが可能になるのか試行錯誤し、ひとつひとつ技術を生み出してきた。
「今後は、とかく趣味の範囲にとらえられがちな刺繍を、アートの領域まで高めていきたい。そのためにも、まずは私の作品を通して立体刺繍の魅力をもっと多くの方に知っていただきたいですね」。新たな挑戦は始まったばかりだ。

ユニークなモチーフは、図鑑や自然科学系の写真集などから選ぶことが多いそう。
主に使用しているのがフランスのメーカーの刺繍糸。「艶があり、特に蝶の羽の鱗粉にリアル感が出るんです」とピエニシエニさん。
色使いで迷うことはほぼないというピエニシエニさん。過去に制作した作品のつくり方や考案したノウハウはすべてデータで管理してあり、必要なときはいつでも参照できるようにしている。
花に昆虫を組み合わせることで、作品全体に動きをもたらし、物語性を感じさせるようにしている。花だけでなく、根っこの部分まで作品にしてしまうのがピエニシエニさんならでは。

PieniSieni(ピエニシエニ)
オフフープ®立体刺繍、オフニードル®フラワーを考案。日本フェルタート®協会理事。第7回AJCクリエイターズコンテスト金賞・文部科学大臣賞など受賞多数。『フェルト刺しゅうの花図鑑』(日本ヴォーグ社)、『立体刺繍で作る 12カ月の花のアクセサリー』(KADOKAWA)、『立体刺繍の花と蝶々: フェルトと刺繍糸で作る、美しい24の風景』(誠文堂新光社)などの著書がある。作家名のPieniSieni(ピエニシエニ)とはフィンランド語で「小さなキノコ」を意味する。
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理想科学工業株式会社 広報部『理想の詩』編集係