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「理想の詩」創り出す人々(2026年夏号)

25分の1に閉じ込めた昭和の世界

フォークソング「神田川」の情景をイメージして制作。横丁の風呂屋、赤いマフラーなど、歌詞に出てくるモチーフが点在している。

手塚治虫、赤塚不二夫らゆかりの木造アパート「トキワ荘」を再現。

見ればたちまち昭和の世界に没入できる

狭い通りにひしめく飲食店と、色とりどりのネオンの灯り。木造アパートの窓を覗けば垣間見える、四畳半のつましい暮らし。サラリーマンは中折れ帽をかぶり、銭湯帰りの若者の足元は下駄だ。どこか懐かしい昭和の世界にタイムスリップし、没入感を味わえるのが、山本高樹さんによるジオラマ作品。風景の中にたたずむ人たちもさまざまな表情が施されており、飽きることなくいつまでも見ていたくなる。「行ってみたいけどもう存在しない風景ってたくさんありますよね。少しの想像を加えながら、それを模型で再現するのがとにかく面白いし楽しいんです」。そう山本さんは話す。
幼少期、特撮や怪獣作品に夢中だったという山本さん。中高生の頃には8ミリフィルムを回して怪獣映画を自主制作し、やがて映像美術の専門学校に進学。その後、映像美術作家として映画やテレビ、コマーシャルなどの制作に従事する。
一方その頃、世間はバブル景気で盛んに土地開発が行われ、昔ながらの建物や風景が次々と姿を消し始めていた。「自分が好きな日本の原風景を、いつか必ず模型にしようと思った」という山本さんは、都内はもちろん全国各地に足を運び、古くからの街並みや建築を写真に収め、記録に残し始めた。そして2001年、満を持して昭和の心象風景を描いたジオラマの連作を発表。以来、昭和の街並みやそこに住む人々をテーマにしたジオラマ作品をつくり続けている。

毎日朝6時から夕方5時までを制作にあてているという山本さん。「集中して黙々と作業をしていると、時間が過ぎるのもあっという間です」。

書庫を兼ねた土蔵の中で、ロウソクの灯りを頼りに執筆していたという江戸川乱歩の伝説に基づいた作品。

すべては物語を進行させるための舞台

制作に設計図は用いず、資料や写真からおおよその全体像が把握できたら、立体にしながら徐々につくり込んでいく。人物は、シリコン製の型に鋳造用樹脂を流し込んで基本的な造形を制作した後、細部を手描きで着色。雑貨類には3Dプリンターも活用するが、木造建築や机などには必ずヒノキを使用する。作品のほとんどが25分の1スケールなのは、街並み全体を再現するのにも、人物の表情までつくり込むのにも最適だからだそうだ。
「長らく映像の世界にいたからかもしれませんが、僕がつくるジオラマ作品もすべては”ドラマを進行させるための舞台“だととらえています。だからこそ登場人物たちにもしっかりと芝居をさせています」。ジオラマと同じ高さに視線を落とし、作品に隠されたさまざまな人間関係やドラマを発見するのも、山本さんの作品の大きな魅力となっている。「後は、見る人が物語を自由に想像して、楽しんでくれたら嬉しいですね」。いまは懐かしい昭和レトロな心象風景に、あなたも浸ってみてはいかがだろうか。

東京・池袋にあった酒場「人世(じんせい)横丁」。
2008(平成20)年に姿を消すまで多くの人に愛された。

愛用している道具類。

山本 高樹(やまもと・たかき)
1964年生まれ。日活芸術学院美術科卒業後、映像美術制作に従事。90年代初頭から全国を取材旅行し、日本の原風景を写真に残す。2001年からレトロジオラマの制作を開始。『電撃ホビーマガジン』『荷風!』などの連載で好評を得る。2012年、NHK朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」オープニング映像のジオラマを制作、話題を呼んだ。作品集に『昭和ヂオラマ館』(メディアワークス)、『昭和幻風景』(大日本絵画)がある。

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