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「理想の詩」創り出す人々(2026年秋号)
「塗り」にこめる日本の美と技
2013(平成25)年に竣工した「理想開発センター」(茨城県つくば市)のエントランスホールの壁も、久住さんの手によるもの。7〜8名の職人が足場の上から徐々に塗り進め、久住さんが仕上げを担当。2時間ほどで完成させた。
幼少期から受けた左官の英才教育
日本に古来からある建築技術、左官。古くは土と砂と藁を水で練った壁材や、石灰や糊を混ぜ合わせた漆喰、時代が下ると石膏、セメントなども用い、鏝(こて)によって壁や床を塗り上げる。久住有生さんは、その確かな技術と洗練されたデザイン性で、国内外から依頼が殺到している気鋭の左官職人だ。
同じく左官だった父のもと、3歳で鏝を初めて持った久住さん。毎日塗りの練習をしないと食事もさせてもらえないほど厳しい指導を受けたという。「おかげで、絶対に左官にはなるものかと思っていました(苦笑)」。しかし、一度はケーキ職人になると決めていた高校3年生のとき、父に「本物を見てこい」と送り出されたヨーロッパ旅行で運命が変わる。「初めて訪れたバルセロナのサグラダ・ファミリアで、数百年かけて一つの建築物をつくり続けるという壮大さに驚き、心が震えました」。
帰国後、父からの「左官の仕事は死んでも残るぞ」という言葉が決定打となり、左官になることを決意。修業期間を経て23歳で独立してからは、文化財の修復から商業施設、個人の住宅まで、さまざまな空間を手掛けてきた。
壁材には、自身の故郷・淡路の土と京都の聚楽土、石灰を使用。触れると少しザラつきがあり、温かみを感じさせる。書の作品が映えるよう、少しムラのある半紙(和紙)をイメージして制作した。
箱根にある富士屋ホテルの「レストラン・カスケード」にて、滝をイメージした大壁を制作。
自然素材が活き、受け継がれる壁へ
久住さんの仕事の肝となるのが、壁材の調合だ。自然素材にこだわる久住さんは、砂の色や形、水分量などを吟味しつつ、その土地にいい土があれば活かしていく。デザインにおいても、自然にインスピレーションを受けることが多い。「空も海も山も、自然を見て不快になる人はいません。壁からもその美しさを感じてもらい、長く大切にしてもらえたら」。
現場に入ってからも妥協はない。乾燥のタイミングで仕上がりが一変するため、塗りにはスピードと正確性の両方が求められる。少しでも違和感があれば、一度塗った壁を壊してやり直すことも。「文化財を修復していると、日本人ならではの繊細な美意識と、つくり手の”残したい“という意思を確かに感じます。僕も、50年後、100年後の人にも誇れる仕事がしたいのです」。
親方として弟子を育て、技術の継承に努めると同時に、講演やメディア出演もこなす久住さん。かつての職人には当たり前だった”黙して語らず“ではなく、左官仕事の価値や素晴らしさを積極的に言葉で伝えていくことも、いまは大切だと語る。「最終的には、僕らがいいものをつくることで少しでも多くの人に喜んでもらい、左官に関心を持ったり、魅力を感じていただけたら。それが伝統の継承にもつながっていけば何よりです」。
ニューヨークにて、国連加入60周年記念事業のイベントで行ったデモンストレーションの様子。
鏝はすべて、反りや質感などを細かく指示した特注品で、普段は数百種類の鏝を使い分ける。写真は磨き(仕上げ)専用の鏝の新品。
久住 有生(くすみ・なおき)
1972(昭和47)年、祖父の代から続く左官の家に生まれる。高校卒業後、左官修業の道に入る。23歳で独立し「久住有生左官」を設立。京都御所の外壁をはじめ、数々の文化財の修復にあたるほか、商業施設や公共空間、個人宅など、国内外からの幅広い依頼に応えている。講演やワークショップなど、日本の左官技術を伝える活動も積極的に展開している。
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理想科学工業株式会社 広報部『理想の詩』編集係
