エジソンが発明したとされるガリ版印刷は、日本では明治時代に実用化され、その後永きにわたってさまざまな現場の印刷業務を支えた。
神奈川県川崎市の枡形中学校で行われたワークショップを通して、ガリ版の歴史と、その進化形である理想科学のデジタル印刷機とのつながり、そしてガリ版印刷の魅力を再発見する。
「結構力がいるなあ」「わっすごい、できた!」。教室のそこかしこから生徒たちの歓声が上がる。ガリ版印刷の体験を通じ、印刷技術や環境に配慮した印刷について学ぶというワークショップでのひとコマだ。30年ほど前まで当たり前のように教育現場にあったガリ版。袖口の汚れを防ぐ腕カバーやインクの独特な匂いなど、40代以上の世代には懐かしい思い出かもしれない。
ガリ版(謄写版)はもともとエジソンが約100年以上前に発明したとされる、孔版印刷の一種。日本ではその簡便性から日清戦争で軍に採用され、昭和にかけて学校や官公庁に普及、告知やテスト問題などの小・中規模印刷に不可欠なツールとなっていった。印刷機材が壊滅した関東大震災後、官報印刷に使われたことでも知られる。
名前の由来は、ロウでコーティングされた紙(ロウ原紙)の表面に鉄筆で文字を書く際に出る「ガリガリ」という音。原紙に開いた穴(孔)からローラーでインクを押し出し、紙に転写する。
ガリ版のしくみを応用し、理想科学から1980(昭和55)年に発売されたのがデジタル印刷機「リソグラフ」だ。マスター(原紙)に孔を開けて版をつくり、インクが孔から押し出されることで印刷される。1枚1枚熱でトナーを定着させる一般のコピー機と違い、一度版ができれば後は転写するだけなので、わずかな電力で大量印刷が可能だ。
リソグラフのしくみについても学んだ生徒たちからは、「昔の人の大変さがわかった」「今はボタン一つで印刷できる。印刷技術の発達に驚いた」との声も。試しにガリ版でつくった「新聞」には、不慣れな鉄筆で書かれた強弱さまざまな線が踊る。手作業ならではの味わいある紙面の完成に、「大変だったけど面白かった!」と笑顔がこぼれた。
ヤスリ版を下敷きにロウ原紙に鉄筆で文字を書く。その紙を印刷機の蓋にセットし、スクリーンの上からローラーでインクを伸ばして印刷する。
版となる原紙には鉄筆によって微細な孔が穿たれている。インクは版全体にまんべんなく押しつけるが、孔がない場所はインクを通さない。
エジソンが開発した頃はミメオグラフと呼ばれていた。写真は手動の輪転タイプのもの。
リソグラフは版(マスター)の巻きついた円筒形のドラムを回転させ紙に印刷する。昔と基本的な原理は同じだが印刷は全自動。(写真 ○ 本体正面の蓋を開けて引き出したドラム)
環境に配慮し、再生可能な大豆を使用。オフィス用デジタル印刷機用に大豆インクを開発したのは理想科学が世界初。
上下段をリソグラフで、中段をガリ版で印刷した「新聞」。
両者の仕上がりの差を比較した。
学校をあげて環境学習に取り組んでおり、環境に配慮した印刷機メーカーとして理想科学の印刷機を用いたワークショップを行っている。
ワークショップの指導を担当した佐藤陽子教諭